いのちの重みを感じながら

高齢知的障がい者支援の目指すべき姿事例集
<初版:平成24年9月発行>

 

高齢知的障がい者支援の目指すべき姿事例集_オモテ表紙

オモテ表紙

高齢知的障がい者支援の目指すべき姿事例集_ウラ表紙

ウラ表紙

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巻頭言

 

長野県知的障がい福祉協会長 宮下 智

 

 平成二十四年度の秋口から平成二十五年度の春までの半年間の間に、調査研究委員会との連携を図りながら開催された「特別研究活動・これからの高齢知的障害者支援の目指すべき姿研究会」は、その参加者の方々に、その形はそれぞれであるにしても、大きな影響を与えた。毎回、報告される必ず<死>で終わるレポート、支援者の見返りを求めない全力、つながりと孤独…、重くのしかかる時間が、いつも研究会を支配していた。


 「人って死ぬんだなあ…」当たり前のことでありながら、毎回、それを突き付けられた。<豊かに生きる>なんて言うけれど、<死ぬ>こと、<衰えていく>ことを忘れて(それに蓋をして)、<生きる>ことの陽の当たるところだけを見ようとしていた自分の甘さが露呈した。自分たち支援者の質の未熟さのために、寿命が全うできず<死>を迎えるかもしれない知的障害の方々、制度間の狭間で、しなくても良い苦労を<障害がある>という理由だけで拒否できない知的障害の方々…、<豊かな死>を前提した時、自分たちのまだ成さなければならない仕事は、目の前に大きく広がっていた。


 この小冊子は、みんなの<全力の物語>の集合である。自分たちの対人援助という仕事は、全力であれば許されるという種類のものではないのは自明だが、少なからず<全力の物語>は、人々の心を揺さぶる。是非、読者諸氏には、揺さぶられて欲しい。そして、それを明日からの支援の向上のためのエネルギーにして欲しいと思う。また、新しい制度や施策を生み出す想像力、実践力の核にして欲しいと思う。


 枕元に置いて、一晩に一つずつでも読めるようにと、工夫させて頂いた。鞄の隅にでも入れて頂いて、時間が空いたその時に、さっと一文に目を通すことも可能である。また、施設・事業所内の研修会においても、是非ご活用して頂ければとも思う。職員会の最後に一事例の読み合わせなんていう使い方もOKである。


 一つの知を、共有の知にしていく。惜しげもなく知を共有し、ともに進んでいく。それが、いま私たちの進むべき道であると思う。

目次

 

1.表紙絵(寺尾 実菜)

2.会長挨拶「巻頭言」 長野県知的障がい福祉協会会長 宮下 智

3.各事業所実践事例ケース

テーマ「高齢知的障がい者の住まい・暮らしの場所」
~介護保険施設への移行がベストなのか?介護保険優先ルールを考える~
☆快適な暮らしの場所はどこですか
 事例1 住む場所が何度も変わったKさんのこと
 事例2 高齢を迎えてからの施設生活開始と数々の病気との対応
 事例3 安心できる生活の場がほしい。でも老人施設は嫌だ
 事例4 平成十三年、二十五年以上生活を続けた施設を移転した意味とは・・・
 事例5 身体機能・食事摂取低下、生活の場を求めて特別養護老人ホームへ
 事例6 高齢知的障がい者の暮らし方や夢の実現に向けた課題
◇豆知識 悠生寮関係の高齢化数値

テーマ「高齢知的障がい者の医療を考える」~通院・入院中心になる生活の中で~
☆あきらめてはいけない
 事例7 腹膜透析、血液透析の日々の生活でNさんの楽しみ
 事例8 高齢知的障がい者の医療ケアと生活の中で
 事例9 最近入院加療を受けた二例を通して見えてきたもの
 事例10 あきらめていたのは誰だろう
◇豆知識 癌(ガン)早期発見の大切さ

テーマ「高齢知的障がい者の日中活動のあり方」~生きがいを求めての支援とは~
 ☆高齢になっても社会体験ができる支援を目指して
 事例11 定年退職。でも、まだまだイケる第二の人生の場として
     ~ハッピーリタイヤを支えて~
 事例12 日中活動へ参加することで日々の生活に変化や潤いを得る
 事例13 どんなに年をとっても病気になっても自分らしく生きたい
 事例14 障がいと加齢による生きづらさが重なり合うなかで
 事例15 Aさんの高齢化に伴う変化~他利用者とのつながりと笑顔を求めて~
 事例16 七十歳を超えても仕事の場を得て充実した生活をおくるTさん
◇コラム 高齢知的障がい者支援の課題

テーマ「高齢知的障がい者の最期の看取り」~いかに安らかに終わりを迎えるか~
☆あなたは、どんな「死に方」をのぞみますか?
 事例17 急性白血病見つかるが治療望まず。施設全体で行われた看取り
 事例18 ご飯を飲み込むのも辛い、それでも私は点滴は嫌!ここにいたい
 事例19 心と身体への支援。二十四時間の付添い。
 事例20 福祉会で仲間と過ごした最後の一〇四日間
◇コラム 母の死を迎えて感じたこと

テーマ「知的障がい者のガンへの対応」
~早期発見・早期治療及びターミナルケアにおける支援~
 ☆早期発見の癌は治療すべきなのか・・・
 事例21 最後まで自分の好きな生活でいられたよ
 事例22 がん再発、転移。限られた余命。
     でも大好きな母との二人暮らしを続けたい。
 事例23 利用者さんに如何に寄り添う
 事例24 大腸がん見つかるも治療拒否。施設でのターミナルケア
◇コラム 我が子の老後は?最期を迎える環境は?

テーマ 「家族の高齢化に対する課題」~親亡き後の行き先は~
 ☆いつか必ずやってくるその時のために
 事例25 両親が亡くなり二人の姉妹とも絶縁、誰が・・・
 事例26 家に帰りたい。でも帰れない・・・
 事例27 親亡き後は・・・と考えていた施設が、そして時代が・・・
 事例28 母の死を乗り越えて、高齢の父との生活の中でのヘルパーの必要性
 事例29 高齢化の諸課題への突破力「観る・つなぐ・つくる」
     共生(ともいき)の一里塚たらんとして
 事例30 ご本人の気持ちの受けとり方について
◇コラム 年老いた知的障がい者の晩年に思う

テーマ 「高齢知的障がい者の機能低下について」
~医療・食事・支援(リハビリ等)を考える~
☆障がいが重くなる利用者を施設がどのように支えていくか
 事例31 加齢によるTさんの変化と高齢化した障がい者施設の抱える問題
 事例32 高齢知的障がいに身体障がいを重複している方の機能低下への支援
 事例33 最後まで自分らしく精一杯に生きるために
 事例34 だんだんと思いについていかなくなってきた身体。
     どこでどのように暮らしたいですか?
 事例35 重い心臓疾患をかかえるBさんに楽しく充実した生活を
 事例36 高齢にともなう嚥下の低下にどう向き合うか
◇豆知識 遺体処理

テーマ 「一緒に暮らした利用者さんとの葬儀(お別れ会)の必要性」
~いかに大勢のみなさんでお別れできるか~
☆見送ってほしい人はだれですか
 事例37 施設で葬儀を行ってほしいと希望されて
 事例38 Hさんを見送って感じたこと
 事例39 ご家族のいない彼女のお葬式 天国まで・・・
◇コラム 職員の心の中に漂っていた不安や迷いを拭い去ってくれた
往診医師から職員への言葉

テーマ 「いずれ死にゆく自分のために何をすべきか?」
~ライフデザインカード等の実施~
☆最後まで想いに寄り添うために・・・
 ○高齢者の終末期の医療およびケアに関する日本老年医学学会の立場表明2012
 ○尊厳死の宣言書
 ○ターミナルケアの流れ・・・穂高悠生寮
 ○ターミナルケア確認書
○高齢知的障がい者支援を考えるための図書三選

4.あとがき